深刻な部品不足を切り抜ける設計ガイド

Judy Warner
|  投稿日 October 30, 2018  |  更新日 January 8, 2021

 

近頃、電気技術者やPCB設計者は皆、コンポーネント不足という危機を感じています。いったいなぜ、基本的な標準コンデンサが足りなくなったのでしょうか。このやっかいな事態は、いつになったら収束するのでしょうか。設計者は部品不足をどのようにしのぎ、作業をスケジュールどおりに終わらせることができるのでしょうか。そこで、この問題についてフランスのLeGrand社、John Watson氏に電話でインタビューしました。世界各地にいる50人もの設計者を統括するPCB設計のリーダーとして、この問題に関連する多くの経験をお持ちです(次回のOnTrackポッドキャストでは、John Watson氏にこの問題についてさらに詳しく解説していただきますのでお見逃しなく)。

 

Judy Warner: Johnさん、部品不足と最近特に入手が難しい部品についての見解をお聞かせください。

 

John Watson: この部品不足全般は、およそ6~12か月ほど前から深刻になり始めました。最初は主にマルチレイヤーセラミックコンデンサ(MLCC)とタンタルコンデンサのリードタイムが長くなりました。それから、入手可能な在庫がなくなり始め、あっという間に最悪の事態に転じ、世界的な危機に陥ってしまいました。

現在の状況では、コンポーネントによっては、リードタイムが短期間でも16週間、中程度で32週間、長くかかる場合は80週間にもなっています。これはつまり、今日コンポーネントを注文したら2020年4月に届くということを意味します。

 

最初はコンデンサのみの不足でしたが、現在はその他のコンポーネントシリーズでもこの問題が生じています。

 

  • 基板実装温度センサー    (約5週間のリードタイム)
  • 電源スイッチIC  (約610週間のリードタイム)
  • MOSFET  26週間以上のリードタイム)
  • サプレッサー / ダイオード(約49週間のリードタイム)
  • 演算増幅器およびリレー   (約52週間のリードタイム)
  • 厚膜 / 薄膜抵抗 (約680週間のリードタイム)

 

Warner: この部品不足の原因について教えてください。

 

Watson: この問題は、需要と供給というシンプルな経済の原理に行き着きます。供給が減る一方、多くのコンポーネントへの需要が爆発的に増えています。

私が見る限り、電子産業の以下3分野がこれらのコンポーネント不足を助長しています。

 

#1. モノのインターネット(IoT)

現在、スマートTV、Bluetoothスピーカーシステム、Amazon Alexa、Google Homeなどから、再生可能エネルギー製品、ソーラーパネルやクラウドコンピューティングに至るまで、スマートデバイス向けの爆発的な需要があります。今やあらゆるものがスマートです。例えば、人の現在地をトラッキングし、スーパーマーケットにいることがわかると、牛乳がないことを検知してそれを知らせるテキストを送信する冷蔵庫があります。Gartnerによれば、2020年までに新たに200億台のIoTデバイスが導入されます。これは、今後2年間にIoTデバイス数が100パーセント増になるということです。この状況に関する私の印象では、それは多数のハードウェアによるものです。

 

#2. 携帯電話業界

個人の電話使用量は大幅に増えており、実際のところ2015年の2倍になっていることが先日報告されました。今後1年間に、約15億台のスマートフォンが製造され、各主力製品モデルにはおよそ1,000個のコンデンサが使用されるとみられます。現時点では、世界中で3兆個のMLCCコが製造されると予測されます。これは、MLCCコのほぼ50%が、携帯電話の分野でのみ設計され、使用されることを意味します。

 

#3. 自動車

ハイブリッド自動車および完全な電気自動車は、現在2桁の成長率を示しています。ただし、この分野の進歩は、自動運転システム(ADS)を通じて自動化に新しい技術を追加することで、一般のガソリン自動車に波及しています。駐車用センサー、自動ワイドスクリーンワイパーなどの新たに自動化された全ての装置がそれにあたります。

 

標準的な燃焼機関を搭載した自動車には、2,000~3,000個のコンデンサが使用されます。電気自動車の場合は、1台で最高22,000個のMLCCが使用されます。

 

さらに、電気自動車の制御回路内の高温環境は、従来のプラスティックフィルムコンデンサが適さないことを意味します。したがって、ますますセラミックのMLCCが使用されるようになっています。このため、AEC(Automotive Electronic Council )という新しい規制機関が組織されました。AECの目的は、耐高温高湿性、耐熱衝撃性、耐久性を含む、車載用電子部品の標準化、信頼性や認定の基準の推進です。

当然ですが、新しい機関として新しい基準や要件が必要になりました。

 

AEC-Q100: 集積回路(IC)

AEC-Q101: 個別半導体コンポーネント(トランジスタ、ダイオードなど)

AEC-Q200: パッシブコンポーネント(コンデンサ、コイルなど)

 

これらの新しい基準により、テストしたコンポーネントのほぼ50%が不適合となったと推測されます。このため、これらの特定の電子部品への需要が5倍に増える結果となりました。

 

Warner: この問題はいつまで続くとお考えですか? 解消の兆しは見えていますか?

             

Watson: 100万ドルの賞金にも値するほどの難しい質問ですね。ですが、当分終わりは見えません。主に次のような理由があります。

 

#1. 今後数年間に見込まれる電子産業の大幅成長。Statistaの調査データによると、2019年に6%、2020年にはさらに8%の成長を予測しています。これは、私たちの業界全体にとって素晴らしいニュースですが、重要な問題を伴います。第一に、この莫大なエンジニアリングの努力をサポートする十分なコーヒーがあるのか、第二にこの新たな成長は全て新しいハードウェアおよび設備を必要とするということです。

 

#2. 多くの部品製造業者は、自分たちにとって採算の合わないコンポーネントライン全体を終了し始めています。生産終了の対象になっている部品は、より大きいパッケージまたはケースサイズの一部です。個別半導体の0603より大きいサイズなどがそれです。なぜでしょうか? 製造業者たちは、それらのラインを終了してより需要の高いコンポーネントに移行しているからです。これにより、選択できるコンポーネントの幅が狭まり、供給が減ります。

 

#3. そのほかに、私たち自身が原因となっている問題があります。部品ベンダーの多くは、現在、いわゆる「分配式」に方向転換しています。ベンダーは、出荷可能な在庫を分け、ある割合の在庫を特定の製造業者に提供しています。ベンダー側は、発注数が最も多い企業と取引することを望みます。したがってそれらの企業は通常通り、優先的に部品を入手する権利を得ます。その他の入手を求める企業側は、明らかにパニックに陥ります。使用可能なコンポーネントの在庫を確保するため、今日一般的に行われている手法は、発注数を2~3倍にすることです。そしてそれらのコンポーネントを、将来使用するために保管しておきます。このやり方は、既に危うくなっている需要と供給のシステムにますます拍車をかけるだけです。

 

Warner: LeGrande社には50人ほどの設計チームを管理していますが、この状況は、ご自身や設計チームに具体的にどのように影響を及ぼしていますか?

 

Watson: 私たちは、新しい設計を開始するその日から大きな影響を受けます。どのコンポーネントを使用することになるかを考える必要がありますが、問題は、その時々で具体的な状況がどうなっているかわからないことです。私たちは部品不足の問題を両側面で経験しており、問題ないだろうと考えられた部品が設計途中で問題になったり、その逆の場合もあったりします。実際、注文書を発行する前にコンポーネントを見つけ、数分後にそれらに対する情報を入手すると、在庫切れになっているといった苦境に陥ることがあります。私は、チームの設計者全員に「常識の通用する状況ではない」と認識するように伝えています。

 

この危機的状況は終わらないと考え、多くのブラックマーケットが発生し、偽造コンポーネントが出回り始めています。この業界の中の、ほんの小さな現場でも、データシートの仕様に一致しない明らかに偽造品と思われる部品を目にしています。ですから、コンポーネントを検索して設計に使用できると思っても、信用できません。本当に困った状況としか言いようがありません。

 

Warner: この困難な状況を切り抜けるため、どのような回避策または解決策を導入していますか?

 

Watson: 私たちは普通ではない状況で設計をしなければなりません。一部のコンポーネントで供給の制限や減少があるため、私たちは フレキシブルになる必要があります。つまり、あるコンポーネントのいずれかの特定パラメータを「標準」と考えられるものと切り離して調整できないかを検討しています。例えば、バイパスコンデンサにどうしても0.1uF 1%のコンデンサを使用する必要があるかどうか。これは最も一般的なバイパスコンデンサの値なので、誰もがその特定コンポーネントを求めて奔走します。パラメータの許容範囲を、例えば1%ではなく5%までに変更することで、コンポーネントの在庫の幅を広げることができます。ある種の設計において使用されるコンポーネントの定義が「厳密すぎる」状況をよく目にします。ですが、単純な変更によりコンポーネントの在庫を新たに得ることができます。

 

そのほかの私たちの対策は、プロセスの他のエリアを主導する PCB設計者です。つまり、コンポーネントの部分で直面するとわかっている潜在的な問題を調達部門に委ねすぎている、ということです。ActiveBOMを使うことで、打ち合わせは短時間で済みます。以前はもっと時間がかかっていました。つまり、技術部門と調達部門はあまり対話をしていませんでした。現在では、Altium DesignerのActiveBOMを通じて、利用できる情報が全社に確実に浸透するようにしています。

最後になりますが、私たちは、マルチフットプリントコンポーネントの使用も開始しました。これは、最初に選択したコンポーネントが不足した場合に、代わりに使用するコンポーネント向けの設計に複数のフットプリントを配置するものです。これによって、すべてを収納する興味深いレイアウトが得られました。

 

Warner: この状況が続くとすると、設計者はどのように先を見越し、臨機応変に対応することで、納期を守って優れた設計を行い続けられるのでしょうか?

               

Watson: 実は、この危機を乗り越えるための3つの「P」があります。それはPlan(計画)、Prepare(準備)、そしてProactive(先手)です。

既に問題がある設計を使わずに始めることで、問題の一歩先をいくのです。多くの場合、技術者は、コンポーネントが利用可能であると考えて以前の設計を使用します。実際には、そのコンポーネントの一部がすでに使用停止になっている、あるいは廃止予定になっているような場合にもです。これでは万事OKと考えることはできません。部品が既に在庫切れになっている場合や、新規の設計には推奨されないことがわかっている場合、その状況は時間が経っても改善せず、やがて最悪の事態を迎えます。さらに、別の作業者が設計に関与するほど、コストやスケジュールに影響を与えずに変更することはいっそう困難になります。

              

ActiveBOM

Altium DesignerのツールであるActiveBOMは、私たちにとって最も重要なツールのひとつになっています。知識は力です。「現在」利用可能なコンポーネントの在庫情報を入手すること、適切で承認済みのAVL、ベンダーをランク付けして複数のリソースを準備できること、各コンポーネントのベンダーを把握できることが重要になってきました。今やこういった情報をすぐに手にできるので、設計のバックエンドが、役に立たない製品や不良PCBの在庫を生み出したことに気付くのを待つ必要がなくなりました。回路図を完成させれば、ActiveBOMに読み込んで問題の箇所を発見できます。

「常識の通用する状況ではない」の次にくるルールがあるとすれば、それは「設計の全プロセスにおいて、コンポーネントの入手可能性を頻繁にチェックせよ」ということです。

 

Warner: この状況を常に把握するために推奨される情報源は何かありますか?

 

Watson: はい。コンポーネントベンダーの多くは、自分たちのコンポーネントの利用を予測しています。業界のトレンドに意識を向け、十分な情報を入手してください。問題や方向性について迅速に情報を入手できれば、より早く重要な意思決定や必要な変更を実施できます。このためには、電子関係の定期刊行物やニュースを読む必要があります。I-Connect-007、EDN、All About Circuits、PCDandF、EE Journal などの、PCB 業界の重要な刊行物で報告されている内容で最新の知識を維持してください。

 

筆者について

筆者について

Judy Warnerは、25年以上にわたりエレクトロニクス業界で彼女ならではの多様な役割を担ってきました。Mil/Aeroアプリケーションを中心に、PCB製造、RF、およびマイクロ波PCBおよび受託製造に携わった経験を持っています。 また、『Microwave Journal』、『PCB007 Magazine』、『PCB Design007』、『PCD&F』、『IEEE Microwave Magazine』などの業界出版物のライター、ブロガー、ジャーナリストとしても活動しており、PCEA (プリント回路工学協会) の理事も務めています。2017年、コミュニティー エンゲージメント担当ディレクターとしてAltiumに入社。OnTrackポッドキャストの管理とOnTrackニュースレターの作成に加え、Altiumの年次ユーザー カンファレンス「AltiumLive」を立ち上げました。世界中のPCB設計技術者にリソース、サポート、支持者を届けるという目的を達成すべく熱心に取り組んでいます。

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